少しだけ期待している。
いつも。
他愛無い賭けだ。どちらに転んでも勝ちの。
もう慣れてしまい、指が自然に導く番号を押しながら財布の中の小銭を探り、手のひらに出せるだけ出しておく。
外線に切り換わるまでのほんの少しの間。
――奇数――
そこからコールの回数を正確に数える。
プルル……一回。
手のひらからコインを一枚机に置く。
プルルル……二回。
コインをもう一枚置く。
プル……三回。
『アロー、フォージャーです』
そう言って出たのは妻だった。
――勝ちだ。
フッと思わず吐息に似た笑みが溢れた。
『もしもし? ロイドさん?』
まだ声も出していない。けれど相手もこちらが誰だか分かっているようだ。自然と口角がさらに弧を描く。
「ああ、すみません遅くなってしまって。そろそろ帰るので何か必要なものはあるかなと思って」
と言っても、もう二十一時を回ってしまっている。聞いたところで店は閉まっているだろう。案の定、妻は『いいえ、大丈夫です。ありがとうございます』と答えると『気をつけて帰ってきてくださいね』と優しく囁いた。
その囁きが、受話器の無粋な振動板を通して鼓膜へと繋がり、何故か耳許に温もりを感じた。
何となく切り難くて、そのまま会話を一、二分と引き延ばす。
妻も丁寧にそれに付き合ってくれる。今日あったこと、娘の様子など、彼女からしか聞けない他愛もない日常。
が、お互いさっさと切って直接聞いたほうが早いと思い直してふたりで笑ってしまった。
受話器を置いて、机の上のコインを三枚追加する。合計六枚。
今日は勝った。
コール三回目で、奇数の妻が出たから。
同じ「目」になったので「勝ち」
他愛無い勝負。いや、勝負ともいえない。そもそも負けがないのだ。自分で勝手に決めて勝手に楽しんでいる児戯。
妻が「奇数」で、娘が「偶数」
その札と、コールの回数を賭けて同じ「目」が出たら勝ち。違ったら負け。勝ったコインは誰かからもらった蓋付きの容器に入れている。ただし、負けても気分で入れたりしている。
本当にくだらない遊びだ。
――「フォージャー」になるまでこんな遊びすらしたことが無かった。
そもそも、家路につく際に誰かに連絡を入れるなんてことも……。
「……」
キュッと音をたてて容器の蓋をきちんとしめる。
コインが詰まった容器は、いつの間にかあと少しでいっぱいになる。そんなに小さな容器というわけでもないのに。
容器のサイズとコインの枚数。そしてその重さは、そのまま賭けの回数と、歳月を主張している。
……そのくせ、その意味は酷く曖昧だ。
コインのように裏表がなくて、どこまでも顔が見えない。
あまりこんな感情を持った経験がなく、どこか面映ゆくて居心地が悪い。
それでいて、手放す気にもならない。
どうしても。
――どうしても。
それを人は「幸せ」と呼ぶらしい。
いよいよいっぱいになって、中身ごと容器を「偶数」に渡した日に。
「奇数」がそう、笑いながら教えてくれた。
end.
[お題]ロイドさんには「少しだけ期待していた」で始まり、「それを人は幸せと呼ぶらしい」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば5ツイート(700字)以上でお願いします。
[出典]https://shindanmaker.com/801664






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