夜半から降った雪は、明け方には消えた。
吹雪の中を往くよりはいくぶんマシだが、お世辞にもツイているとは言い難い。なにせこう道が泥濘んでいては、馬も足を取られて余計な神経を使う。
早くしないと列車の時間に間に合わなくなる。ここでもう一泊などまっぴらだ。遅れて帰ったら何を言われるかわかったもんじゃないし、使う金はこちら持ちだ。
余計な金なんぞビタ一文だって無い。
「ちょっと速度上げるぞ。舌噛むなよ」
そう言いながら、チラリと隣へ目をやる。
隣に座っている少女は、聞いているのかいないのか、黙ったまま道路脇へ顔を向けていた。
それ以上なにも言わずに黙って馬の速度をあげた。
少女は昨晩出会った時からずっと黙ったままだった。
ペコペコ卑屈な愛想笑いをする親たちの後ろで、ずっと黙ってこちらを向いていた。
俯くことなく、ただこちらをじっと。
これから行く場所を思えば明るくいられるはずもないが、かといって泣き叫んだり世を儚んだりする様子もない。現に御者台には自分から乗った。そして、親の顔を一度も見ることなくまっすぐ前を向いた。
何かに挑むように。
その少女が、食い入るように何かを見ている。
視線の先を辿ると、立ち枯れたような、歪な木々の枝を覆うように休む鳥たちが見えた。
その鳥たちをずっと見ている。
まるで、あれらを瞳に写し撮るように。
「……ミヤマガラスっていうんだ、あれ」
なんとなく、考えるより先に口がついた。
少女は驚いたようにこちらを振り返る。
「渡り鳥だ」
「渡り鳥」
「季節ごとに住む場所を変えるんだ。暖かくて餌が沢山ある場所を求めて何千キロも飛ぶ……知ってたか?」
「……ううん。毎年来るけど……知らなかった」
「……」
そうだろう。
毎日毎日、ただ生きるためだけの暮らしでは、人は上を見ることはまずない。
黙って耐えるだけだ。
俯きながら、ただーー。
だが、少女は下を向かなかった。
こんなときでさえ、こちらを黙って見つめている。
「よく覚えときな。うちの店の近くにも来る」
馬車の速度を僅かに落とす。
あんな鳥だって、娼館の窓からのほんの少しの慰めにはなるだろう。
「……うん」
鳥たちが休む木立ちの横を、ゆっくりとした馬車が通る。
その道行きで、少女はこの風景を鳥たちへ託した。
アレクセイ・サヴラーソフ【ミヤマガラスの飛来】(1871)







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