どんなものにも終わりは来る。自明の理だ。だが、その建造物は自分の終わりをまだ信じていない。
そんな風情でそこに建っていた。
廃墟になったコンサートホール。
かつて美しき交響曲、優美な歌曲を絶え間なく奏でていたらしいその建物は、優美な佇まいもあって人々の称賛を絶えず己の物としてきた。だが、政権が交代し、復興のシンボルとなった新しい開発地区に同じようなホールが建てられた時、この建造物はその地区ごと人々の記憶から置き去りにされた。
今は石畳の外壁は意味の分からないペイントと罵倒であふれ、誰かの憤懣の犠牲になった窓ガラスと一緒に立ちすくんでいる。
ここが敵のアジトだと知らされたのはおよそ二時間前だ。東国と西国にまたがる麻薬組織の拠点のひとつ。昨今急激に力をつけてきており、WISEとしても看過できないと以前の作戦会議で掲示されたことがあった。今後なんらかの形で接触する可能性があるとも。
娘と訪れた食料品店で、おつりのコインと一緒に渡された暗号。
テレビアニメを一心に見る娘の目を盗み目を通したその指令は、場所と時間程度しか書いてなかった。この場合はたいてい偵察が主な任務となる。だが、日時が問題だった。当日の、しかもあと二時間しかない。運悪く、今日は妻からも所用で遅くなると言われていた。即座に情報屋が捕まったのは助かった。文句を言う赤い眼鏡に大金を握らせ黙らせたが、さすがに急が過ぎる。報告の際に一言嫌味でも言ってやらねば。そこまで考えて、さっと壁際に身体を隠す。
音がした。
グリップを握っていた指先に少しだけ力を籠めて、壁に身体を沿わせる。視線の先のエントランスホールには、朽ちた植木鉢の残骸が大階段の誘導灯のように等間隔に並んでいる。その大きな植木鉢の間に、黒影がさっと横切る。
早い――。
最初、何かの動物かと思った。その黒い影は上体を低くして、あっという間に階段を駆け上がっていき、大階段の踊り場、優美なステンドグラスの前で止まる。
人影だと、そう認識したは、その黒い影がゆっくりと立ち上がってからだ。
壁伝いで人相まではよくは見えないが、そこまで大柄な影ではかった。
一瞬、このアジトの持ち主たちが戻ってきたのかと思った。だが、それにしては動きが俊敏すぎる。ここを拠点としている者ならばあんな動きはしないだろう。
だとすると同業者か、または……。
ちっ、と心の中で舌打ちをする。麻薬組織と聞いた時点でマフィア関連だとわかってはいたが、「別口」が来る可能性までは考えてなかった。思ったより組織自体が拡大している証拠か。
今回はただの偵察だ。ここでことを荒立てるのはまずい。
幸い黒い影はまだ踊り場に立ったままだ。何をしているのかまでは分からないが、このままそっと離れるべき……そう考えた瞬間、シュッと空気を削く音とともに、鈍くて重い何かがすぐ近くの壁をえぐる。
ナイフ!? だが確かめる間もなく、次の投擲が今度は足許の床へ刺さった。
視界の端に、黒い影がざっと跳びこんでくる。
「――!」
一発、影めがけて躊躇なく発砲するが、影は即座に真横にと避け、たった今までいた階段の端に金属音が当たる音だけが響いた。
ふわっと、天井から風に頬を撫でられる。
振り仰ぐと、たった今までずっと先の階段にいたはずの黒い蝶が、その殺意の鱗粉をまき散らしながら舞っていた。
音もなく優雅に舞い降りるその蝶を、愕然として見上げる。
「君は……」
口から、あり得ない音が漏れた。
あり得ない。
だが、呼びなれた、音。
ここにいるはずない、妻の名を――。
[お題]s/fは、真夜中のコンサートホールが舞台で『植木鉢』が出てくるバトルする話を4ツイート以内で書いてみましょう。
[出典]https://shindanmaker.com/139886
[文字数]1453字
[あとがき]
書きたいところだけを書いたらこうなりました。確かお題のほかに、「戦闘描写を書く」というしばりを付けてた気がします。
全然書けてないですね笑






※コメントは最大500文字、5回まで送信できます