「普通ってなんですか?」
「え?」
その言葉に面食らう。
「いや、よく気にされてるから」
「……あ、えっと……」
思い切り仰け反って頭をぶつけてしまった。大したことはないのに、しばらく動かないようにと言われてまだ床に座っている。
醜態を晒してしまった恥ずかしさを、足を撫でることで誤魔化す。耳の辺りがこれ以上無いくらいに火照って、鼓膜の奥でどくどくと音が反響している。
その音がうるさくて、頭がうまく回らない。
普通。
改めて言われるとなんだろう?
周囲に溶け込むこと? 誰にも疑われないこと?
そもそも、普通になりたかったのは弟に心配をかけたくなかったからだ。
結婚もしたし、娘もいるし、母親にもなれたし、家族になれたし。
これ以上無いくらいに「そう」なったはずなのに。
けれど……、それでもやっぱり。
「……じが……」
「ん?」
「同じが良かったんです」
みんなと。
「――例えば?」
「ぐ、愚痴とか」
他愛ない文句とか。
それを誰かと共有したり。
「夫の悪口を言い合ったり?」
「えぇ⁉ ち、違います! ……て、あたた……」
「ああ、急に動かすから。瘤になってませんか? ちょっと見せて」
「うう……」
がんがんと音がする頭を抑えていると、その上からそっと指が触れた。
その指先が優しくて、そして思ったより熱くて、頭より先に心臓が高く鳴る。
「――やってみます?」
「え?」
「ヨルさんの思う普通ってやつ。手伝いますよ――ああ、やっぱり瘤になってる」
「ど、どうやって?」
出来なくて長年モヤモヤしているのに。
「普通って、つまり『普段通り』ってことだから」
「普段通り……」
おはようと言ったり、おかえりと声をかけたり?
「瘤が出来たら手当をしたりね」
そんな当たり前のことが?
考え事をしていると、チュッと瘤が出来た辺りから聞きなれない音がした。
降り仰ぐと、青灰色の瞳が「手当ですよ」と言って細めた。
「――これも、普通ですか?」
「さてね」
そういって、夫は普段通り優しく笑った。
Last Updated on 2025-07-12 by ashika







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